NAT(アドレス変換)

家庭やオフィスの“プライベートIP”を、インターネットで使える“グローバルIP”に書き換える仕組み。IPv4枯渇を乗り切る立役者で、ルータの中で毎秒動いている。

中級NATIPアドレスルータインフラ最終更新: 2026-07-20
3つの要点
TL;DR
  1. NAT は プライベートIP(192.168.x.x など)と グローバルIP を相互変換し、IPv4 アドレス不足を実質的に回避する仕組み。
  2. 家庭用ルータの実体は PAT/NAPT:ポート番号まで書き換え、1つのグローバルIP を複数端末で共有する。
  3. 外向き発信に強い一方、外からの着信は届かない。公開したいなら ポートフォワーディング、根本解決は IPv6。

何を解決する?

IPv4 アドレスは約43億個しかなく、世界中の端末に1つずつ配るには 全然足りません(IPv4 枯渇)。そこで、

  • 各家庭・各オフィスには グローバルIP は1つ(数個)だけ 割り当てる
  • LAN の中では、誰とも衝突しない プライベートIP を自由に使う
  • インターネットに出る瞬間だけ、ルータが グローバルIP に変換 する

この“出口で住所を貼り替える”発想のおかげで、限られたグローバルIPを大量の端末で共有できます。詳しいアドレスの考え方は /network/ip-subnet/ を参照してください。

プライベートIPの範囲は決まっている

LAN内専用に予約されたアドレス帯(RFC1918)は次の3つ。インターネット上には流れません。
10.0.0.0/8172.16.0.0/12192.168.0.0/16

基本の仕組み

PC(192.168.0.10)が、あるWebサーバー(93.184.216.34)へアクセスする場面を追います。グローバルIPはルータが持つ 203.0.113.1 だとします。

  1. PC が「送信元 192.168.0.10 → 宛先 93.184.216.34」のパケットを送る
  2. ルータが送信元を 自分のグローバルIP 203.0.113.1 に書き換え て外へ出す
  3. 「誰の代わりに出したか」を 変換テーブル に記録しておく
  4. サーバーからの返事は 203.0.113.1 宛に戻ってくる
  5. ルータがテーブルを見て、宛先を 元の 192.168.0.10 に戻して PC へ渡す

つまり NAT の本体は、この 変換テーブル(誰の通信をどう貼り替えたかの対応表) です。

横にスクロール

2台のLAN端末の送信元IPとポートをNATルータが1つのグローバルIPと別々のポートへ変換し、戻り通信を表から元の端末へ復元する流れと、外部着信の扱い
PATは内側のIP・ポートと外側のポートの対応を通信ごとに記録し、戻りパケットを元の端末へ復元します。表にない外部着信は転送先を決められず、公開する通信だけDNATルールを明示します。変換表には容量と期限があるため、大規模障害ではポート枯渇やタイムアウトも確認します。

NAT の種類

ひとくちに NAT と言っても、何を・どう変換するかで呼び方が分かれます。

種類変換するもの用途・特徴
静的NAT (1:1)1つのプライベートIP ↔ 1つのグローバルIP を固定公開サーバー向け。常に同じ外側IPで見える
動的NATプールから空きグローバルIPを都度割り当てIPの数だけ同時接続可。今は出番が少ない
PAT / NAPTIP に加えて ポート番号 も書き換える家庭用ルータの主役。1つのIPを多数端末で共有

家庭用ルータがやっているのは、ほぼ常に一番下の PAT(Port Address Translation)、別名 NAPT(NAPT=NAT+ポート変換) です。「IPマスカレード」と呼ばれることもあります。

PAT:ポートで見分ける

グローバルIPが1つしかないのに、PC・スマホ・テレビが同時に通信できるのはなぜか。答えは ポート番号でも区別している から。

ルータは外へ出すとき、各通信に 異なる送信元ポート を割り当てて記録します。

内側(プライベート)外側(グローバルへ書換後)
192.168.0.10:51000203.0.113.1:40001
192.168.0.11:51000203.0.113.1:40002

戻りパケットは「203.0.113.1ポート 40001 宛」のように届くので、ポートを鍵にして元の端末・元のポートへ正確に振り分けられます。ポートの考え方は /network/tcp-udp/ にもつながります。

SNAT と DNAT は“どっちを書き換えるか”の違い

SNAT(Source NAT)送信元 を書き換える変換で、LAN→インターネットの外向き通信がこれ。DNAT(Destination NAT)宛先 を書き換える変換で、外から来たパケットを内部サーバーへ向け直すポートフォワーディングがこれにあたります。家庭用ルータは送信元を隠す SNAT が既定動作です。

外からの着信:ポートフォワーディング

NAT は 内側から始めた通信 には強い一方、外から突然来る通信 はテーブルに対応が無いため捨てられます。これは副次的なファイアウォール効果でもありますが、自宅サーバーを公開したいときは困ります。

そこで ポートフォワーディング(ポート開放 / DNAT) を設定し、「203.0.113.1:443 に来たら、内側の 192.168.0.20:443 へ転送する」とルータに教えます。

# Linux ルータでの例(iptables)
# 外向き:LAN(192.168.0.0/24) の送信元を出口IPへ書き換える(SNAT/マスカレード)
iptables -t nat -A POSTROUTING -s 192.168.0.0/24 -o eth0 -j MASQUERADE

# 内向き:WAN の TCP 443 着信を内部Webサーバへ転送する(DNAT)
iptables -t nat -A PREROUTING -i eth0 -p tcp --dport 443 \
  -j DNAT --to-destination 192.168.0.20:443

つまずきポイント

  • NAT 配下では P2P が難しい:両端が NAT の内側だと、互いに着信できず直接つながらない。WebRTC 等は STUN / TURNNAT越え(ホールパンチング) で回避する
  • NAT はセキュリティ機能ではない:外から入れないのは“着信を捨てている”副作用にすぎず、本来の防御は /network/proxy-lb/ も含めたファイアウォールで設計する
  • 二重NAT に注意:自前ルータの外にプロバイダー側の NAT(CGN)がもう1段あると、ポート開放しても外から届かないことがある
  • 同じポートを2台へは割れない:外側 443 を内部の複数サーバーへ同時に振り分けることはできない(手前のリバースプロキシで振り分ける)
キャリアグレードNAT(CGN/CGNAT)の壁

モバイル回線や一部の固定回線では、プロバイダー自身が大規模NAT を挟み、グローバルIPを多数の契約者で共有します。この場合 自分側でポート開放しても外部公開はできず、固定グローバルIPの契約や別経路(VPN・トンネル)が必要になります。

NAT の限界と IPv6

NAT は IPv4 枯渇を 延命 した立役者ですが、本質的には「足りないIPをやりくりする回避策」です。変換テーブルの維持コスト、P2P や着信通信の難しさ、エンドツーエンドの透過性の喪失といった代償を伴います。

根本的な解決は IPv6 です。アドレス空間が桁違いに広い(約340澗個)ため、すべての端末にグローバルIPを直接配れて、原理的に NAT が不要になります。現実にはしばらく IPv4 と併用が続くため、NAT は当面なくならない仕組みでもあります。アドレス体系の全体像は /network/tcp-ip/ も合わせてどうぞ。

ハンズオン

# 自分のグローバルIP(NAT変換後に外から見える住所)を確認
curl -s https://ifconfig.me

# 自分のプライベートIP(LAN内の住所)を確認
# Linux:
ip addr show
# Windows:
ipconfig

# 経路上で住所が変わる様子(自宅ルータが最初のホップ)を追う
traceroute example.com   # Windows は tracert

ネットワークの記事ガイド

NAT(アドレス変換)を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

NAT

比較で見る軸

難易度: intermediate / カテゴリ: ネットワーク / タグ数: 4

導入後に効く点

家庭用ルータの実体は PAT/NAPT:ポート番号まで書き換え、1つのグローバルIP を複数端末で共有する。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
intermediate
カテゴリ
ネットワーク
タグ数
4

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「NAT / IPアドレス」に近いか確認する。
  • 強みである「NAT は プライベートIP(192.168.x.x など)と グローバルIP を相互変換し、IPv4 アドレス不足を実質的に回避する仕組み。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

NATIPアドレスルータインフラ
参考: 公式情報